つづき。
3月末の話。
今シーズン4度目のシーズンインといわれたドカ雪が降った後の話。
遠くから見るとアリの行列の様に見える登る人々の列から離れ、我々は先へと歩を進めた。
標高は2000mを超えていた。眼下には雲海が広がるものの、上空には雲がほとんどなかった。じりじりと太陽が私の顔を焦がしていた。急いで日焼け止めクリームを塗り直す。
暖かい日差しの元、休憩を取る。軽く食べて水分を取る。登っている間は一人ずつ黙々と登っている。一歩一歩単調な動きを繰り返しながら黙々と登っている。なので、それぞれに色んな事を考えながら登っている事が多い。ルートはこれで合っているのか、積雪はどうなってるのか、ペースは大丈夫か、天気はどうなのか、はたまた全然関係ない仕事のこと、人間関係のこと、社会のこと、
メロディが脳内に流れていて作曲をしていることもある。なので、休憩をするとそれぞれに考えていたことが堰を切ったようにあふれ出てくることがある。これはこれで醍醐味の一つでもある。
だがしかしちょっと休憩をしている間に一気に雲がやってきて視界が悪くなり始めていた。早く先に進もう。
時期に視界は真っ白になってしまった。山の天気は変わり易いとはいうが、本当に激変した。とはいえ降り始めたわけでもなく、風が強くなったわけでもない。ただ、歩を進めると雪質は大きく変わっていた。日の当たり方、風の通り方で大きく雪質が変わってしまう。これから向かうバーンがどうなっているのか不安がつのる。だがしかしここの雪質だけで判断は出来ない。行くしかない。
真っ白な視界の先に何か動いているモノが見えた。カモシカだった。真っ白な中から現れて、真っ白な中へと消えていった。
つづく。